信託口の口座を作成しなくて良い、誰も言わない本当の理由

かわさき
信託口の口座って、なぜ作らなければいけないのでしょう?

本を読んだり、セミナーを受けると
「お金を信託するなら信託口の口座を作りなさい」
とかいわれます。

でも、銀行に行くと、信託口の口座はなかなか作らさせてくれない。

どうしたらいいのでしょうか?

信託口の口座を作る『秘密の方法』でもあるのでしょうか?

これ、平成30年3月にお送りした「信託契約書 比較セミナー」でも議論した内容ですよね。

私は、民事信託は数十件の実績がありますが、
私の方法は
「受託者の個人口座で対応」
しています。信託口座にすることにはこだわっていません。

信託契約書 比較セミナーの他のパネリスト(皆さん、数十件以上の実績の人ばかり)も同様な意見でした。

なぜ、信託口座を作るのか?

法的にしっかりした形の信託口座は

・委託者(当初の受益者)が死亡しても、口座が凍結されない
・受託者が死亡しても、凍結されない
・受託者が破産しても、凍結されない

というものです。
これは、信託されたお金を保管する口座に要求される要件ですね。

でも、こんな口座を作るのって大変なんです。金融機関からすれば。(多分)

今まで扱っていないでしょうから、

・銀行内のシステムの変更が必要な場合もある
・窓口の行員の教育も必要(マニュアルの作成が必要)
・そもそもやったことがなし、他行もやってないみたいので、やりたくない(前例主義、横並び主義)
・信託の目的以外の引き出しに応じても、責任が取れない

などなど

費用も手間もかかるし、銀行としても怖い。できれば避けたい。

ということで、信託口座の作成は大変なんでしょうね。

でも、信託全体で考えてみましょう。

なぜ、信託口座を作るのか?

それは、
「分別管理するため」
なんですよね。

受託者の生活費を入れている口座と、信託された口座が同じ口座だと、ゴチャゴチャになって訳わからなくなりますよね。

ですから、分別管理しなさいって、信託法は受託者に要求しているんです。(信託法34条1項2号ロ)

しかも、信託法では、「計算を明らかにする方法」で分別管理すればいいので、

条文どおり取れば、帳簿をしっかりしていれば、生活費の口座と同じ口座でもいいことになります。

ま、これは極端としても、個人の口座と、信託のお金の口座が別々になっていれば、OKでしょう。

受託者が破産したら、どうなる?

受託者が破産しても、信託財産は差し押さえされないことになっています。(倒産隔離)

初心者 専門家
信託口座でないと、ダメなんじゃないでしょうか?
かわさき
そんなことはないですよ。

「倒産隔離」は、受託者の義務ではないです。
法で、差押えできないことになっているだけです。

分別管理は義務ですが。

受託者の義務をザッとまとめると

(1)善管注意義
 ⇒ 仕事のようにしっかり、やれってこと

(2)忠実義務
 ⇒ 自分のためでなく、受益者のためだよ

(3)分別管理義務
 ⇒ 不動産は登記、お金はしっかり帳簿

(4)公平義務
 ⇒ 受益者が複数いる場合ね

(5)帳簿等の作成、報告
 ⇒ 特にコメントはいらないですよね。

(6)損失てん補責任等
 ⇒ しっかりしないで損害がでたら、弁償してもらうよ

(7)事務の処理を依頼する場合の、選任、監督
 ⇒ 税理士などに帳簿を作ってもらう場合や、不動産の管理を業者に頼む場合など。ちゃんとした人に頼んで、放っておくなってことでしょうね。

このように、口座は凍結されないようにしっかりしなさいってという義務はないのです。
受託者には。

つまり口座凍結されないってことは、法が認めていることに過ぎないんですね。

受託者が破産、口座凍結! どうするか?

受託者が破産しました。口座は個人口座。凍結されました!
どうしたらいいか?

冷静に、銀行や差し押さえした人に対して、
「第三者異議の訴え」
つまり裁判をすればいいんですね。

その口座が信託の口座と証明できれば、(契約書や覚書で証明はできます)ロックは解除されるでしょう。

不動産は登記していないと、ダメですが、お金は登記できないので、信託口座とかそうゆう口座でなくてもOKなんです。(債権者に対抗できる、ということ)

根拠はこちら

【信託法】
(信託財産に属する財産の対抗要件)
第十四条 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記又は登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができない。


受託者が死亡、口座が凍結された!
どうしたらいいか?

新しい受託者が、
「預託金 返還訴訟」
つまり裁判をすればいい。

口座が信託の口座と証明できれば、ロックは解除されるでしょう。

そもそも、受託者が破産するとか、委託者より先に亡くなるってほとんどないじゃないですか。

亡くなる場合も、事故などの突然死は少ない。近年は5000人くらい。
一年で120万人亡くなるうちの、0.5%もありません。

人は亡くなるときは、病院に入院して、亡くなることが多い。
その間に新しい受託者を立てて、口座を切り替えればいい。

そう考えると、信託口座にこだわる理由はあまりないのでは、と思います。

かわさき
実際、私は、受託者の個人口座でやることが最近多いです。

あ、でも、帳簿はしっかり作ることは必要ですよ。

ですから、お金を信託するときは、管理がキチンとされていれば、信託口座にはあまりこだわらなくてもいいと思いますよ。


※ この記事は、平成30年4月24日にメルマガでお伝えした記事を、一部修正・加筆したものです。
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コメント

  1. 吉川 より:

    私は実務家ではありませんが、先生のメルマガの読者です。最近我が家も信託について考えるようになり、色々なサイトを読んでは考え方もマチマチなんだなぁと実感している所です。信託口口座についても専門家内でも意見が分かれていて、法律の捉え方や考え方って人それぞれ角度が違って面白いもんだなと思います。私は基本的に【今できうることをやる】という考えなので、今回のテーマでのお話はすんなりと入ってきました。そしてレイアウトも大変分かりやすくて、LINE風のやり取りの画面が特に気に入ってます。これからもメルマガ楽しみに拝読します!

    • かわさき かずお より:

      吉川さん
      コメントありがとうございます。
      これからも、メルマガお届けしていきますね

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