信託の終了時の設計のポイント

最近、信託の契約書をチェックする依頼がちょっと集中しています。
依頼者は司法書士

その時、僕が重点的に見る点の一つに、
信託の終了時の設計がどうなっているかがあります。

シンプルなケースで考えましょう。

家族構成は
父、娘
の2名

信託財産は
自宅

信託する目的は
父が認知症になっても、自宅を売却できるようにしたい

信託の終了事由は父死亡

帰属権利者はもちろん長女
(ていうか、これ以外あり得ないですよね)

もう、これ以上シンプルにできないシンプルさ!

終了のときの設計で、
僕が真っ先に確認するポイントは3点あります。

・終了事由
・受益者
・帰属権利者

この3つが整合性がとれているか

結論から言うと・・・

終了事由は、
父死亡で終了することにしっかりなっているか?

これを外すことはないですよね。

次に受益者の設計
受益者は父になっているか?

そして、最後に帰属権利者
長女をしっかり指定しているか?
予備的に、長女が先になくなった場合の設計があるか?

これでいいでしょう。
今回のケースではこれ以外はあり得ないです。

そうすると、受託者も長女だろうから、
第2受託者の定めも必要ですよね。

受託者である長女が先に亡くなったら、家の管理を誰がするか。

こんな感じで、様々な条項に波及していきます。

信託は全体で、整合性がとれていることが必要になりますので。

委託者:父
受託者:長女
受益者:父
帰属権利者:長女

終了すると清算期間がある

ちょっとややこしいのがここ

父が死亡して、信託が終了すると、信託が速攻完結(結了)するわけではありません。

清算期間がある。

会社と同じですね。
会社は解散してすぐなくなるのではなく、清算があり、清算が終わると結了
解散してから、結了まで最低2ヶ月は必要です。

信託は、終了してから、結了まで、期間の制限はありませんが
概念的には清算期間があります。

問題はこの間(清算期間)も受益者が必要なこと

言い換えると

父死亡後も、一瞬でも受益者が必要です。

これって誰?

もちろん長女。

なぜか?

根拠は信託法183条6項
「帰属権利者は、信託の清算中は、受益者とみなす。」

この条文、チョウ重要

それから、父は委託者でもあり、その父が死亡しているので、
清算期間中の委託者も必要です。

ここで問題なのは、
委託者の地位は相続されること

もう一度言いますよ。

委託者の地位は相続されます。

信託で何も定めていないと、遺産分割協議の対象になっちゃうんです(ワオ!)

ですから委託者も、父死亡後は長女になるように書いておきましょう。

そうすると清算期間中の構成はこんな感じ

委託者:長女
受託者:長女
受益者:長女
(帰属権利者:長女)

おお~!
全部長女。
事実上、長女が信託財産その物を、普通に所有していると同じ形になりますね。

実は終了はもう一つパターンが

ややこしいのがこれ。
終了させる方法はもう一つパターンがあります。
「合意終了」

お父さんが亡くなるのは、コントロールできない。
その時、長女が事故に遭って、植物状態だったら?

そうすると、長女に帰属させて終了するより、
長女の子とかに、管理を続けてもらった方がいい。

となると、コントロールできない父の死亡で信託を終了させるって、
ちょっとどうかな?って感じになるんですね。

実は、私は、死亡で終了はほとんどやりません。

信託は様々なリスクを考慮して、
「こんなときにも対応できますよ」
って、設計しますので。

そうするとこんな感じに構成が変わってきます。

【設定時】
委託者:父
受託者:長女
受益者:父

 ↓↓

【父死亡後】
委託者:長女
受託者:長女
受益者:長女
※ただし、受託者=受益者のパターンになると、信託は1年で終了です。
 信託法163条2号

そうすると終了事由と、受益者と、帰属権利者の関係はこんな感じ

終了事由:合意
受益者:父 ⇒ 長女
帰属権利者:長女

いやいや、ちょっと待って
長女が先に亡くなったらどうなる?

終了事由:合意
受益者:父 ⇒ 長女 ⇒ 孫
帰属権利者:長女 ⇒ 孫

これを文章で書くとめんどくさい。(笑)

帰属権利者は長女とする。長女が父より先、または同時に死亡したら孫とする。

まあ、これでもいいけどもう少しスマートな方法が

合意で終了させるときの受益者が帰属権利者

そうなんですよね。

父死亡、受益者が長女
これでいいかなって、長女が自分で合意して終了

その時の帰属権利者は長女

長女が先に亡くなった。
受益者は孫。
孫がこれでいいかなって、孫が自分で合意して終了

その時の帰属権利者は孫

つまり、終了時点で
受益者=帰属権利者
になっているんですね。

この場合、帰属権利者の書き方はシンプルにできます。

帰属権利者は終了時の受益者とする。

もうこれでOK。

となると、信託契約の書きかたは、
終了事由:合意
受益者:父 ⇒ 長女 ⇒ 孫
帰属権利者:終了時の受益者

こんな感じで、少しシンプルになります。

もちろん実際はもう少し複雑

両親がご健在な場合は
受益者は父 ⇒ 母( ⇒ 子)
とすることが多いですよね。

ですから、実際はもう少し複雑になりますが、基本的な考えは同じ。

●パターン1 死亡終了
終了事由:父死亡
受益者:父
帰属権利者:長女(予備的に孫とか)

●パターン2 合意終了
終了事由:合意
受益者:父 ⇒ 長女( ⇒ 孫)
帰属権利者:終了時の受益者

僕が信託を見るときは、はこのパターンのどちらかになっているかを、まずは確認します。
個人的には、ほとんどのケースでパターン2を使っています。
理由はコントロールできないことで信託を終わらせたくないから。

ちょっと今回はマニアックな内容でしたが、
信託を設計する人はみなさん意識していることだと思います。

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